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はじめまして!
当「合鍵物語」は、合鍵にまつわるたくさんの特別な思い出を集めたサイトです。
両親共働きで鍵っ子だった思い出、彼から初めてもらった鍵、などなど!とっておきのエピソードがいっぱい。
合鍵は複製できても、思い出は複製できないのです。ぜひ一話ずつ大切に読んでいってくださいね。

初恋

これは僕が小学校二年生の頃の話だ。
二年生になり、クラス替えが行われ、僕は「ユイちゃん」という女の子と隣同士になった。

僕は学校からほど近い、団地がたくさんある場所に住んでいたのだが、ユイちゃんは道路を何回も曲がらなければならない様な遠くに住んでいた。
一年生の頃はお互いあまり顔も知らなかったので、僕は隣同士になって初めてユイちゃんのことを知ることになった。

ユイちゃんは、とても女の子らしい女の子だった。
いつも髪を二つに分けて結っていて、肌は透き通る様に白くて、目がどんぐりみたいに大きい。
とてもじゃないが、うちの近所に住んでいる鼻ペチャのアキコとは違う。
ユイちゃんと隣同士になった僕は、なんとなくユイちゃんを意識してしまって、勉強に身が入らなくなってしまった(もっとも、熱心な生徒ではなかったので、言い訳っぽくもあるのだが・・・)。

そんなユイちゃんと僕は、学童保育でも一緒。
ユイちゃんのお母さんはシングルマザーで、お母さんが働いてユイちゃんと妹を育てている。
近くにお母さんの実家があるということだが、毎日学校帰りの子供の面倒を見るのはキツイということで、ユイちゃんと妹は学童保育に入れられたのだそうだ。
今思えば、こんな大人の事情を当のユイちゃんが知っていたことに驚くのだけれど。
ユイちゃんの家は、おばあちゃんも働いているという事だったから、しょうがない事情もあったのだろう。

とにかく、学童保育でも一緒だった僕らはよく遊んだ。
毎日、学校が終わるとみんなで手をつないで学童保育の建物に行くのだが、ユイちゃんと妹が手を繋いで歩く後ろで、僕はナイトの様に二人についた。
学童の建物なんて、学校のすぐ隣にあるのだから守るも守らないもないのだが、僕は幼心に「女の子は男が守ってあげるものだ」と言う意識があったし、まして相手がユイちゃんだったので、「彼女のことは僕が守るんだ」という気持ちでいた。
まあ、子供なりにユイちゃんへのアピールもあったのだと思う。

ユイちゃんは絵を描くことが好きな子だったので、僕は彼女に付き添ってよく絵を描いた。
はっきりいって、僕の絵は「幼稚園児の方がまだマシ」というレベルだったので、ユイちゃんに見られるのはとても恥ずかしかったのだが、ユイちゃんはいつも「上手、上手」と褒めてくれた。
二人で花を見たり、鬼ごっこをしたり、僕たちはいつもそんなことをして遊んでいた。

学童の時間が終わりに近づくと、僕らは広げた宿題や荷物を片付けて親の帰りを待つ。
別に学童は親が迎えにこなくてもいいのだが、その頃は近所でいろいろ事件があって、「なるべく迎えに来る様に」というお達しがあったのだ。

親が迎えに来るにも順番があって、僕の親は比較的早く、ユイちゃんの親はとても遅かった。
ユイちゃんの母親は大抵夜まで働いていたから、迎えに来られる日の方が少なかったはずだ。
僕の親が迎えにくると、ミエちゃんはとても寂しそうな顔をする。
僕が親と一緒に帰っていくのを、妹と一緒にずっとずっと見送ってくれていた。
胸にピンクパールの合鍵をぶら下げて。

僕は、自分の恋心が伝わるのを恐れて、親に「もっと遅く迎えに来て」とは言えなかったし、妹を連れて帰るユイちゃんに「気をつけて」とか気の利いた言葉を言うことすらできなかった。
そんな日々が一年続いた後、ユイちゃんと僕は別のクラスになり、その後一年を経て学童保育も終わった(学童に入れるのは三年までなのだ)。

交わらなくなった僕とユイちゃんの日常。
子供というのは不思議なもので、接点が無くなれば最初から何もなかったかの様な関係になることがある。
僕とユイちゃんはまさしくそれで、三年生以降は言葉を交わすことすら無くなった。
今は、彼女がどこでどうしているのか、それすら僕は知らない。

だけど、たまに実家に帰った時、同じ年くらいの女性を見るとつい振り返ってしまう。
道行く女性に、ついユイちゃんの面影を探してしまう。
透き通った肌と、二つに束ねた黒い髪と、どんぐりの様な丸い瞳。
いつもちょっと寂しそうにしていた、ユイちゃんの面影。

学童から先に帰る僕を見守ってくれた彼女を、守ってくれる人がいてくれるといい。
心優しく、さみしがりやだった彼女を。

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